【わたしの本棚】は、
編集部員の本棚から月に1冊、おすすめの本を紹介していく連載コーナーです。
みなさんが、運命の本と出会うきっかけになりますように。
今月も、心を込めてお届けします!
家事、育児、仕事…。
毎日やらなくてはいけないことに追われ、ちょっぴり疲れてしまったとき。
そんなときに私が出会った本が、瀬尾まいこさんの『天国はまだ遠く』でした。
毎日に疲れてしまった主人公が、現実を逃れて自然豊かな土地で羽を休める。
そんな主人公に、私はいつしか自分を重ねるようになっていきました。
本の世界に入って、少しの間、ゆったりと心を休めてみませんか?
主人公は、毎日に疲れてしまった社会人の千鶴。
毎日会社で働くのがしんどくなってしまった彼女は、日々の生活から逃れるために家を出ます。
目的地は定まっていません。
ただ、「うんと遠く」。
特急に乗りタクシーで走り続けた先で、偶然みつけた民宿に泊まることにしました。
自然に囲まれた土地で民宿を営んでいたのは、田村さんという若い男の人。
すこしぶっきらぼうな印象でした。
彼に案内され和室に向かい、のちに眠りにつきます。
目が覚めると、田村さんが用意してくれた朝食が。
ぶっきらぼうな彼の料理は、想像以上に美味しくて。彼と、そして大自然に囲まれたこの土地にも惹かれ、千鶴は何泊何泊も泊まりつづけることに。
ある日、田村さんはそんな千鶴を海へ連れ出してくれます。
舟を出して早朝から海へ向かい、魚の釣りを教えてくれました。
その後も、鶏小屋を案内してくれたり…。
田村さんは千鶴が経験したことがないたくさんのことを教えてくれます。
そんな田村さんのおかげで少し元気がでたのか、千鶴は民宿の近くを散策するように。
全身で自然を感じながら、また何日も何日も泊まり続けます。
日に日に生きる気力を取り戻していった千鶴は、好きだった絵をまた描き始めるまでに元気に。
田村さんと、この自然あふれた土地でたっぷり充電することができた千鶴は、ついに家に帰ることを決意します。
穏やかで濃密なこの日々は、千鶴にまたじぶんの生活をはじめる力をくれました。
田村さんに別れを告げて、ついにこの街を離れます。帰りがけに、田村さんはたくさんのお土産をくれました。
電車に乗り込むと、ちょっぴり寂しい気持ちになって、田村さんが最後に渡してくれたお土産に手を伸ばします。
するとそこには、田村さんの民宿の住所が記されたマッチが。
「このマッチを頼りに、あの土地をまた訪れよう。」
この思いは、これからまた生活をリスタートさせる千鶴の大切なお守りになりました。
主人公とじぶんを重ね合わせながら読んだ、『天国はまだ遠く』。
彼女の心がほぐれて元気を取り戻していく様子を読んでいるうちに、私も少しずつ疲れが癒えて生きる活力が湧いてきました。
毎日にちょっぴり疲れているあなたに、ぜひ読んでいただきたい1冊です。
【今回ご紹介した本】
瀬尾まいこ、平成18年、『天国はまだ遠く』、株式会社新潮社