実家に昔からある大きなタンス。
「背も高くて倒れると危ないから」と、母が処分を考え始めました。

確かに引き出しも重く、高齢の母が暮らす実家でこのまま使うのは心配。
母自身がそう言うならと、わたしも処分を手伝うことにしました。
しかし大変なのは、そのタンスの中身をどうするか。

開けると出てきたのは、もう何十年も着ていない服、わたしが小さい頃に着ていたという服、新品のタオルなどなど。
「これ、覚えてる!」と、昔の記憶がなつかしく蘇ります。
手放すものと残すもの、母といろんな話をしながら整理していきました。

だいたいは分けられたのですが、唯一どうするか決められなかったものがありました。
それは母がおばあちゃんからもらったという、着物。

もう着ることはないけれど、手放すのは寂しい。
しかし着物はたくさんあり、全部を置いておくのは少し無理がありそうです。
手放さずに何かに活かせる方法はないかな?と調べていると、「着物リメイク」というものがあることを知りました。

眠っている着物を洋服にリメイク。
スカートやベスト、ワンピースなど、母も着られそうな服が並んでいます。

「これ、着物で作れるの?」母は驚いていましたが、すぐに「素敵!」と着物リメイクに興味を持ったようです。
手縫いでできると知り、「この大切な着物は手放さずにリメイクしてみよう」ということになりました。

週に一度、実家でわたしと母の着物リメイクレッスンがはじまりました。
動画でまず基本のテクニックを学び、簡単な小物へのリメイクから挑戦です。

わたしは裁縫をあまりしてこなかったのですが、飲み込みの早い母にびっくり。
「ここ、どうするの?」など母に聞きながら、いっしょに過ごす久しぶりの親子の時間。
「この着物、おばあちゃんがよく着てたなあ」と、昔話にも花が咲きます。

翌週、その翌週と実家に通うたび、わたしと母の進み具合にはどんどん差がついていきました。
母はわたしが来ない日にも、着物リメイクを楽しんでいたようです。

「あ!」ある日の母は、着物リメイクで作ったスカートを着ていました。
「いいね」「うん、けっこういいね」
嬉しそうな母の姿を見ていると、昔のおばあちゃんの着物姿も浮かんでくるようです。

初心者のわたしもロングベストが完成。
袖を通すと、どこか懐かしいような不思議な感覚にじんわりとしました。

母はどんどん着物リメイクを進め、出来上がった服を自分で着たり、わたしにプレゼントしてくれたり。
生まれ変わった着物のコーディネイトを考えるのも、楽しい時間です。

やがてすべての着物をリメイクし、タンスも処分が済んですっきりとした実家の部屋。
親子のレッスンの時間は終わりましたが、今も週に一度実家に通っています。
「リメイクが楽しかったから、他の洋服も作ってみようと思って」
着物地の素敵な洋服を着た母は、また新しい趣味を見つけたようです。
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